理学療法士トレーナーの柴田です。
2009年〜理学療法士(整形外科分野)、2012年〜理学療法士&パーソナルトレーナーをしています。
スイミングコンディショニングスペシャリストという資格を持っています。
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最大酸素摂取量はスピード持久力を決定づける最も重要な要素の1つ
「後半、身体が重くてスピードが落ちる…」
「もう一段階、持久力を上げたいけど、どんな練習をすればいい?」
競泳選手にとって、最大酸素摂取量(VO2max)は、スピード持久力を決定づける最も重要な要素の1つです。
特に中・長距離種目では、この能力が高いほど、レース後半まで高い泳速度を維持することができます。
VO2maxとは、簡単に言えば「身体が1分間に体重1kgあたり取り込める酸素の最大量」のこと。
これが高ければ高いほど、あなたの身体は酸素を効率よく使ってエネルギーを生み出し続けられる、「燃費の良いエンジン」になるのです。
この記事では、競泳におけるVO2max向上のための科学的な理論と、すぐにプールで実践できるトレーニングメニューを解説します。
※本記事は、競泳選手のパフォーマンス向上を目的とした情報提供です。トレーニングメニューの実施は、必ずコーチや専門家の指導のもと、自身の体力レベルに合わせて行って下さい。
最大酸素摂取量(VO2max)の簡単な推定計算方法
VO2maxの厳密な測定には、専門施設での呼気ガス分析が必要ですが、心拍数を用いた簡単な計算式で大まかな数値を推定することができます。
この推定式は、安静時心拍数(HRrest)と最大心拍数(HRmax)の関係を利用しています。
VO2max=15×最大心拍数(HRmax)/安静時心拍数(HRrest)
(単位:mL/kg/min)
VO2maxの計算に必要な数値
① 最大心拍数(HRmax)の推定
最大心拍数は、年齢とともに低下する傾向があります。
以下の一般的な式で推定できます。
HRmax=220−年齢
(単位:拍/分)
※より精度の高い推定式として、「208−(0.7×年齢)」を用いることもあります。
② 安静時心拍数(HRrest)の測定
安静時心拍数は、朝目覚めてすぐに、身体を起こさずに測定するのが最も正確です。
手首の動脈(橈骨動脈)などで1分間の脈拍数を数えます。
トレーニングを積んだアスリートほど、この数値は低くなります。
【VO2maxの計算例】20歳の競泳選手の場合
- 年齢: 20歳
- 推定 HRmax: 220−20=200拍/分
- 安静時 HRrest: 50拍/分(アスリートとして低めに設定)
VO2max=15×200/50=15×4=60 mL/kg/min
(注意点) この計算式はあくまで一般的な推定であり、実際のVO2maxとは異なる場合があります。また、水泳はランニングなどと比較して、心拍数が上がりにくい特性があるため、特に注意が必要です。
競泳選手に必要な最大酸素摂取量(VO2max)の目安
競泳選手のVO2maxは、種目特性によって目安が異なります。
一般的に持久力が求められる長距離種目の選手ほど、高い値が求められます。
VO2maxは、体重1kgあたりの酸素摂取量(単位:mL/kg/min)で比較されます。
| 種目カテゴリ | VO2maxの目安(単位:mL/kg/min) |
| 長距離選手(例:400m以上) | 55〜65以上 |
| 短距離選手(例:50m, 100m) | 50〜60程度 |
| 一般的なトレーニングをする成人男性 | 40〜45程度 |
競泳選手の値に関する補足
- 水泳特性: 水中では重力負荷が少ないため、ランニングなどの陸上競技と比較すると、水泳選手のVO2maxの絶対値は低くなる傾向があります。しかし、水中で効率よく酸素を利用する能力(水泳特有の酸素利用効率)が非常に優れています。
- 短距離でも重要: 短距離選手も、レース後半のスピード維持(スピード持久力)のためにVO2maxは非常に重要です。
競泳選手のVO2maxの目安
一流の競泳選手、特に中・長距離を専門とする選手は、60 mL/kg/minを一つの目安としてトレーニングに取り組んでいると考えて良いでしょう。
この数値を向上させることが、レース終盤のパフォーマンス低下を防ぐ鍵となります。
VO2max向上のための科学的理論:なぜ高強度が必要なのか?
VO2maxのトレーニングで最も重要なことは、「VO2maxにできるだけ近い強度で、どれだけ長く運動時間を稼げるか」です。
1. 狙うべきは「HRmax 90%以上」の強度
VO2maxを効率よく向上させるためには、最大心拍数(HRmax)の約90%以上、つまり「かなりきつい」と感じる高強度での運動が必要とされます。
これは、体内の酸素運搬能力と利用能力を最大限に引き出すためです。
- 脈拍の目安: 10秒間で脈拍が30回以上になる(1分間で180回以上)状態を維持できる強度を目指しましょう。
2. インターバルトレーニングで「運動時間」を稼ぐ
VO2maxを狙った高強度の運動は、長時間続けることができません。
そこで有効なのがインターバルトレーニングです。
短時間(例:100m)を高い強度で泳ぎ、短い休息(例:15〜30秒)を挟んで再び高強度で泳ぐことを繰り返すことで、合計の運動時間を増やすことができます。
これにより、心肺機能に高い負荷をかけ続けることが可能となり、VO2max向上に繋がるのです。
3. レスト(回復時間)の「短さ」が鍵
VO2maxトレーニングにおけるレストは、完全に疲労を回復させるためではなく、次の高強度運動に移るための最低限の回復にとどめることが重要です。
レスト時間が短ければ短いほど、心拍数が高い状態を維持しやすくなり、VO2maxへの刺激が強くなります。
【実践メニュー】VO2maxを爆発的に引き上げるインターバルトレーニング
ここでは、VO2max向上に特化した具体的なインターバルトレーニングのパターンを紹介します。
1. ベーシックなVO2maxインターバル
最もシンプルで、自分のレベルに合わせたペース配分を掴みやすいメニューです。
| メニュー | 強度と狙い |
| 100m × 4〜6本 (サークル:1分20秒〜40秒) | 全力の70〜80%程度の泳速で、全て同じタイムを出すことを目指す。脈拍をHR180以上に維持する。 |
| 50m × 6〜8本 (サークル:50秒〜1分00秒) | 短い距離で、より高い泳速を意識し、心拍数を急激に上げる。リカバリーをタイトにして負荷を高める。 |
2. ショートディスタンス向け:スピード持続強化メニュー
短距離選手がレース後半の失速を防ぐために、VO2maxとスピードの両方を刺激するメニューです。
| メニュー | 強度と狙い |
| 25m 全力 + 75m 高強度 × 4セット (レスト:10〜15秒) | 最初の25mで神経系を活性化(スプリント)。続く75mで高強度を維持し、VO2maxを刺激する。 |
| 200m + 100m + 100m (各セット間レスト:15秒) | 200mで乳酸を出し、その後の100mでさらに高い強度を維持し、VO2max領域での運動時間を稼ぐ。 |
3. ロングディスタンス向け:持続力最大化メニュー
中・長距離選手が、高い泳速を維持する能力を強化するためのメニューです。
| メニュー | 強度と狙い |
| 400m × 3本 (レスト:2〜3分) | 400mのレースペースよりもやや速い強度で、泳ぎ切ることを目標とする。リカバリーは長めに取り、質の高い泳ぎを維持する。 |
| 8分間×4セット インターバル走(トレッドミル/陸上) | HRmax 90%以上の強度で8分間ランニング(またはバイク)し、4分間のアクティブレスト(軽いジョグやストレッチ)を挟む。水泳練習と合わせて行うと効果的。 |
まとめ:競泳選手の限界突破は「正しい知識」から始まる
VO2maxトレーニングは、肉体的にも精神的にも非常にきつい練習です。
しかし、この限界突破の先にこそ、あなたの自己記録更新があります。
- VO2max向上の鍵: 高強度(HRmax 90%以上)を、インターバルで合計の運動時間を稼ぐこと。
- 実践のポイント: 脈拍を意識し、レスト時間は必要最低限にとどめること。
科学に基づいたトレーニングで、あなたの限界を超え、目指すレースで最高のパフォーマンスを発揮しましょう。
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