理学療法士トレーナーのタツです。
2009年〜理学療法士(整形外科分野)、2012年〜理学療法士&パーソナルトレーナーをしています。
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はじめに
競泳において「水を捉える感覚」、「推進力の強さ」、「疲れにくさ」は、すべてフォームの良し悪しにかかっています。
これらは単なる技術や筋力だけではなく、バイオメカニクス=身体の動きの科学で説明できます。
本記事では理学療法士の視点から、競泳の各泳法に共通する動作解析、筋機能評価、効率的なフォーム作りを徹底的に解説します。
競泳におけるバイオメカニクスの重要性
競泳は水中という特殊環境での運動であり、抵抗を減らし、推進力を最大化する動きの効率性が重要です。
バイオメカニクスの観点では、以下の3点が特に鍵になります。
要素 | 内容 |
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水の抵抗を減らす | 頭部の位置、姿勢制御、無駄のない動きの連鎖 |
推進力を最大化する | 上肢・体幹・下肢の連動性、関節角度、ストローク効率 |
疲労を最小限に抑える | 力の分散・回復局面の確保、エネルギー効率の良い運動様式 |
🔗参考:World Aquatics(旧FINA)公式技術ガイド
泳法別バイオメカニクスの特徴と改善ポイント
【1】自由形(クロール)
- 推進力源:上肢のキャッチ〜プル〜プッシュ動作
- 重要部位:肩甲帯の安定性、胸椎回旋、体幹の連動
- 改善の鍵:
- 肘を高く保ったエルボーハイの習得
- ローテーション(体幹の回旋)と腕の同調性
【2】平泳ぎ
- 推進力源:脚のキック(内旋+底屈+膝伸展)
- 重要部位:股関節・膝・足関節の連携、腰椎の可動性
- 改善の鍵:
- 膝の屈伸でなく、股関節主導でのキック
- キック動作のリカバリーでの抵抗最小化
【3】バタフライ
- 推進力源:体幹のうねり(ドルフィンモーション)+両腕のプル
- 重要部位:胸椎伸展、腹筋群、肩関節の柔軟性
- 改善の鍵:
- 腹筋群を使った効率的な波動運動
- ストロークとキックのタイミング一致
【4】背泳ぎ
- 推進力源:上肢の回旋+背部筋群の活用
- 重要部位:肩関節外旋、体幹のローテーション、頚部の安定
- 改善の鍵:
- 頭の位置を保ち、姿勢をまっすぐにする
- 片腕のエントリータイミングを正確に保つ
理学療法士が実施する競泳選手の機能評価
評価項目 | 内容・目的 |
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肩関節可動域テスト(外旋) | ハイエルボー姿勢をとれるか(120°以上目安) |
胸椎回旋・伸展評価 | ローテーション能力と水面姿勢保持 |
体幹筋群(腹斜筋・腹横筋)機能評価 | 推進と姿勢制御の中心、ストローク安定性に直結 |
股関節伸展+膝伸展の連動評価 | キック動作の効率確認(特に平泳ぎとクロール) |
呼吸パターンチェック | クロール時の頭部回旋とタイミングの評価 |
🏊♂️ 泳法別バイオメカニクス評価シート(セルフ&プロ用)
【共通評価項目】のおさらい
項目 | 評価内容・目的 | 判定基準 |
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肩関節外旋可動域 | ハイエルボー姿勢が取れるか(肩〜肘の可動域確認) | 120°以上が望ましい |
胸椎回旋・伸展 | ローテーション動作のスムーズさ、姿勢制御能力 | 伸展40°以上、回旋45°以上が目安 |
股関節内外旋 | キック効率、回旋動作の自由度 | 内外旋ともに左右差10°未満が理想 |
体幹筋機能(腹斜・多裂) | 推進力・姿勢安定の源(ブレイシング・プランク確認) | 60秒間の安定保持が可能か |
【自由形(クロール)】
評価項目 | 評価内容 | 判定ポイント |
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ローテーションタイミング | 体幹の回旋と腕のリカバリー動作が同調しているか | 頭がブレず、肩が滑らかにロールしているか |
エルボーハイの維持 | キャッチ〜プル初期で肘が高い位置を保てているか | 肘が肩より下がっていないか |
呼吸動作の一貫性 | ローテーションに乗じて呼吸できているか | 顔が大きく水面から出ていないか |
【平泳ぎ】
評価項目 | 評価内容 | 判定ポイント |
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キックの連動性 | 股関節主導での内旋・底屈・伸展が協調しているか | 膝下だけでなく股関節からの運動が見られるか |
膝外反・膝下ブレ | キック時に膝関節軸が安定しているか | 足部が左右対称に水をとらえているか |
リカバリーの抵抗最小化 | 引き付け〜蹴り出しで水の抵抗を最小限に抑えられているか | 膝が水面上に出すぎていないか |
【バタフライ】
評価項目 | 評価内容 | 判定ポイント |
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ウェーブモーションの質 | 胸椎〜骨盤〜足の順で波動的に連動しているか | 頭や腕が先に動き出すなどの分離動作がないか |
キックとストロークの同調 | キックが2回/1ストロークでバランスよく配置されているか | 第1キック:入水時/第2キック:プッシュ後で一致しているか |
腰椎過伸展の有無 | 体幹の動きに対し腰椎への負担が過度でないか | 腰が反りすぎていない、腹筋に力が入っているか |
【背泳ぎ】
評価項目 | 評価内容 | 判定ポイント |
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エントリータイミング | 腕のリカバリーと水中動作の切り替えがスムーズか | 水しぶきが最小限、肩主導のリカバリーになっているか |
姿勢制御(水平保持) | 頭・骨盤・踵が一直線で水面に近いか | 腰が沈んでいない、頭が過剰に持ち上がっていないか |
体幹ローテーションの対称性 | 左右均等に体幹が回旋できているか | 肩の振り幅やテンポに左右差がないか |
✔️チェック方法と記録方法(オススメ)
- 📹 スマホやGoProで水中&陸上から撮影し、スロー再生で分析
- 📊 月1回ペースで記録・比較し、改善状況や弱点の傾向を可視化
- 👥 理学療法士や競泳トレーナーと共有し、トレーニングに反映
競泳パフォーマンスアップのためのトレーニング例
① ショルダースタビリティ強化(クロール・背泳ぎ向け)
- 【種目】プランク+セラバンド外旋
- 【目的】肩甲帯の固定性と肩の負担軽減
- 【回数】10回×3セット
② 股関節モビリティ向上(平泳ぎ向け)
- 【種目】ヒップサークル+ラテラルランジ
- 【目的】内旋+外転の可動域と筋出力強化
- 【回数】左右10回×2セット
③ ドルフィンモーション強化(バタフライ向け)
- 【種目】バランスボール上での体幹波動トレーニング
- 【目的】胸椎・腹筋連動の動作学習
- 【回数】15回×2セット
🏊♂️ トレーニング連動型プログラムシート(競泳フォーム評価対応)
🧭 使い方ガイド
- 各泳法のフォームチェック or 動作評価を実施
- 「☑改善すべき」と判定された項目に該当するトレーニングを実施
- 週2~3回ペースで継続(各トレ:15~20分)
【自由形(クロール)】
評価項目 | 判定 | トレーニングメニュー例 |
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肘の位置が低い | ☑改善すべき | 🔹チューブ外旋(エルボーハイ):10回×3セット |
体幹ローテーションが不足 | ☑改善すべき | 🔹サイドプランクローテーション:左右各15秒×2セット |
呼吸時に頭が上がる | ☑改善すべき | 🔹ドリル:片手クロール+片側呼吸練習:25m×4本 |
【平泳ぎ】
評価項目 | 判定 | トレーニングメニュー例 |
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キックが膝主導 | ☑改善すべき | 🔹クラムシェル(股関節主導化):バンド有り10回×2セット |
足首の底屈が弱い | ☑改善すべき | 🔹足関節モビリティストレッチ:10回×2セット |
リカバリーで水の抵抗が大きい | ☑改善すべき | 🔹タオル挟みキック練習:フォームの軌道制御向上 |
【バタフライ】
評価項目 | 判定 | トレーニングメニュー例 |
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ウェーブモーションが不十分 | ☑改善すべき | 🔹バランスボール波動練習:15回×2セット |
腰椎の過伸展傾向 | ☑改善すべき | 🔹デッドバグ(腹圧・体幹安定):10回×2セット |
ストロークとキックがズレる | ☑改善すべき | 🔹2ビートキックのタイミング練習:25m×4本(テンポ重視) |
【背泳ぎ】
評価項目 | 判定 | トレーニングメニュー例 |
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エントリー時の姿勢が崩れる | ☑改善すべき | 🔹仰向けチューブプル練習:左右各10回×3セット |
背中・腰が沈む | ☑改善すべき | 🔹ヒップブリッジホールド:20秒×3セット |
体幹ローテーションが非対称 | ☑改善すべき | 🔹メディシンボール・体幹ツイスト:左右各10回×2セット |
🗓 週間メニュー例(各泳法共通)
曜日 | メニュー内容 |
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月曜 | 評価+修正トレ(肩・体幹・股関節) |
火曜 | 実泳ドリル(改善点反映)+フォーム確認 |
水曜 | 休養または軽い可動域ストレッチ |
木曜 | ローテーショントレ+テクニックドリル |
金曜 | プル・キック強化トレ+短距離反復 |
土曜 | スキルトレ+バランス強化エクササイズ |
日曜 | 自由練習 or 動作再評価+記録(セルフ動画推奨) |
競泳選手に起こりやすい障害とその予防法
障害名 | 原因となる動作・機能低下 | 予防・対策 |
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肩関節インピンジメント | 繰り返しの外旋・挙上+筋力アンバランス | 肩甲骨安定性トレ、可動域とストレッチの両立 |
腰痛(腰椎過伸展型) | バタフライやドルフィンでの体幹不安定性 | 腹筋群・骨盤底筋群の強化、胸椎伸展制限の改善 |
膝痛(平泳ぎキック) | 股関節と膝の動作不一致、膝関節ねじれ | 股関節主導のキック練習、下肢ストレッチ+モビリティ改善 |
まとめ|競泳は「技術+バイオメカニクスの最適化」で進化する
- ✅ 競泳動作は水中での物理法則と身体制御の融合である
- ✅ 泳法別のバイオメカニクスを理解すれば、効率的なフォーム改善が可能
- ✅ 理学療法士による関節可動域評価・体幹機能評価は障害予防と動作改善の第一歩
- ✅ 個別の機能特性に応じたトレーニング戦略が記録向上に直結する
🎯 今すぐできるアクション!
- ✅ 自分の泳法を動画で撮影し、フォーム分析してみる
- ✅ 練習前後に肩・股関節のモビリティチェックとストレッチを習慣化
- ✅ 定期的に理学療法士による動作評価を受け、トレーニングに反映する
また、競泳はスピードだけではなく、スピードを維持することができる持久力も重要です。
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